モータウンの町

今月の18日、デトロイト市が破綻した。社会情勢やグローバル化という言葉に疎い僕は、どんな波紋が広がるのか伺い知ることさえ容易ではない。

デトロイトで真っ先に思いつくものはレコードレーベルの「モータウン」である。スティービー・ワンダーやジャクソン・5といったアーティストの顔ぶれや、デトロイト・テクノといったサウンドを連想してしまう音楽ファンである。特に60年〜70年代のモータウンは底抜けの明るさと印象的なフレーズが散りばめられた作品が連なり、一度聞いたら頭から離れなくなる。例えアーティストの名前や曲名を知らずとも、モータウンの音楽が流れ出せば何処かで聞いたことのある音楽として記憶の片隅から呼び起こされることだろう。

デトロイトが最大の人口を記録した1950年代。一般的にはGM(ゼネラルモーターズ)の町として知られている。同じ時期、GMは年10億ドル以上を稼ぎ出すアメリカ初の企業となった。「モータウン」とはレコードレーベルとしか思っていなかったが、デトロイトの通称である。モーター・タウン、つまりモータウンということを先ほどWikipediaで知った。

一方、僕の生まれ育った町と言えば家電メーカーでおなじみの日立市。「Hitachi」はモーターの開発がきっかけとなり日立製作所を設立。駅周辺にはモーター最中や扇風機最中を販売する和菓子店がありお土産としても重宝されている。日立市は国産のモータウンとも言えなくもない。地元ではニッセイ(日製)の呼び名で親しまれているが、バブル崩壊後に経営が悪化。当時僕は高校3年生で日立工業高校の就職先と言えば、日製というのが決まり文句のようになっていた。しかしこの年の募集はたった1〜2名だったことを覚えている。希望に溢れる町の空気が急速に変化しているのを若年ではあるが肌で感じていた。

デトロイトのニュースに端を発し、黄金期のモータウンに思いふけていると、いつしか自分の住む町の雰囲気と交錯し複雑な心境になる。 かつてあったであろう人々の活気や希望、そして期待。 後戻りする事はないであろう当時の面影は、儚くもノスタルジックな気分に襲われてしまうのである。

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7月13日、Light Outで行われたGood Groove当日。 直前にはDigtiと一緒に水戸のレコードショップ、バイニール・マシンにいた。遠方の方でもブラッミュージックファンならご存知の方がいるかもしれない。店内のレコードを眺めているとDigtiがスティービー・ワンダーのMy Cherie Amour探していたことを思い出し、レコード棚から取り出した(僕は学生の頃から通っているので何処に何があるのかもなんとなく把握している)。1969年発売のオリジナル盤である。段ボールを圧縮したような米盤特有の紙素材。厚塗りのインクにコントラストが強いプリント。若干のウエアリングはあるが40年以上前の印刷技術で出力された状態をはっきり見て取れる。当時の情報源と言えばラジオが主たるメディアであり、モータウンは家庭用のラジオやカーステレオを通して最適な音質となるようマスタリング〜プレスされていたと言う話しもあるが、まさに当時制作された現物である。

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当時のインナースリーブは、レーベル作品のリストや広告枠としても利用されていた。 My Cherie AmourのインナースリーブにはMOTOWN FAN BAGのお知らせがプリントされている。 今もバックの現物を持っている方はいるのだろうか。。。 クーポン枠の「DON’T DELAY, ORDER TODAY!」の文字に視線が移ると、まるで先日出来たばかりのレコードを手にしているように思えてしまう。

レコードとは日本語にすれば「記録」である。
それは「音」そのものだけでなく、制作当時の環境や営みの断片までもが記録されている。最近はiTunesなどで聴きたい音楽を即座にダウンロードし楽しんでしまうこともあるが、やはりオリジナル盤には代え難い輝きがあるのもまた事実だ。

My Cherie Amourから聴こえてくるメロディーは、デトロイトの自動車産業がもたらした活気と、豊な人々の息吹をスティービー・ワンダーが代弁しているかのように僕の心に響き渡るのである。